共同相続人の一人による相続財産に対する時効取得が認められた事例

判例タイムズ1471号196頁

東京地裁平成30年07月12日判決

 

「…亡Yは,本件(土地の)持分移転登記時以降,本件土地亡X持分を単独で所有する意思を対外的に表明するに至ったと同時に,これと強い利用上の一体性を有する本件建物についても,当然併せて単独で所有する意思を持つに至ったと認めるのが相当…」

「…本件持分移転登記が完了したという客観的状況の変化を通じて,亡Yは,本件土地亡X持分のみならず,その土地の上に建つ本件建物についても併せて単独所有の意思を黙示的に表示し,そのことを原告の親権者である亡Aも認識していたと認めるのが相当である…」

「…したがって,本件持分移転登記を完了したことにより,本件建物についても,亡Yに本件建物のうち原告の相続分に相当する部分の他主占有をさせていた原告に対し,上記単独所有の意思を表示したことが認められるから,これによって平成4年10月12日(持分移転登記日)以降の本件建物に関する亡Yの占有の性質は他主占有から自主占有に転換したというべきである。」

 

数人の共同相続人の共有に属する相続財産たる不動産につき,その一人による単独の自主占有が認められるためには,その者に単独の所有権があると信ぜられるべき合理的な事由が必要です(最高裁S54/04/17判決)。よって,他に相続人がいることの認識があれば自主占有は認められません。

 

本件では,他の相続人から「相続分のないことの証明書」の交付を受けて土地の単独の相続登記を完了しているという客観的事情からその上にある建物(共有登記)について上記のような認定となったものです(事案は実際は複雑です)。

 

ところで,この判決で参考になるのは「相続分のないことの証明書」の意味について触れている部分です。

 

「亡Aが亡Yの要請に応じて本件証明書を作成・交付した趣旨が,亡Xの相続財産に係る原告の相続分についての包括的な処分を積極的に意図したものであったのか,それとも単に亡Yによる単独の相続登記の便宜を図ったに過ぎないものであったかは,証拠上判然としない」「亡Aが原告に代わって亡Xの相続財産に係る相続分の包括的な処分行為に及んだ事実まで推認するのは証拠上困難」としています。

つまり,この証明書の作成・交付によって,相続分の譲渡又は放棄の法律効果は当然に発生するものではない,その交付の趣旨を検討しなければならないとしている点です。

 

実務上,判断が難しい部分ですので,参考になります。

 

| 法律/家事・相続 | 18:05 | - | - |
専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合と縁組意思

最高裁:平成29年1月31日判決

原 審:東京高裁

原々審:東京家裁

判例タイムズ1435号95頁

 

民法802条1項

 

「…相続税の節税の動機と縁組をする意思とは,併存し得るものである。したがって,専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても,直ちに当該養子縁組について民法802条1項にいう当事者間に縁組をする意思がないときに当たるとすることはできない。」

 

節税養子とか相続税養子とか呼ばれる養子縁組についての判例です。

節税養子の効力については,無効説と有効説がありましたが,一応有効説に傾いた判断と言えそうです。

 

なお,判決では,上記判断に続いて「本件養子縁組について,縁組をする意思がないことをうかがわせる事情はなく,当事者間に縁組をする意思がないときに当たるとすることはできない」としています。

よって,単なる便法として縁組されたもので真実は養親子関係を築く意思がないと判断される場合には,縁組が無効ともなりうると考えた方が良いでしょう。

 

なお,上記判例タイムズの解説では,相続税法上の基礎控除などにも言及し(15条2項,63条など),相続税の節税効果については別途考えておかねばならないことに触れています。

| 法律/家事・相続 | 14:16 | - | - |
共同相続された普通預金債権等は遺産分割の対象となるか

最高裁平成28年12月19日決定

判例タイムズ1433,44頁

 

原審  大阪高裁平成27年3月24日

原々審 大阪家裁平成26年12月5日

 

「共同相続された普通預金債権,通常貯金債権及び定期貯金債権は,いずれも,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく,遺産分割の対象となるものと解するのが相当である。」

 

預貯金債権がすべて可分債権かは争いのあったところで,例えば,ゆうちょの定額貯金は,契約上据置期間があることや分割払戻しが制限されていることなどから,相続開始と同時に当然に分割されることはなく,遺産分割の対象となると判断されていました(最高裁平成22年10月8日)。

 

本判決は,平成16年判決と相反するものであることから,これを変更したものと解説されています(上記判例タイムズ)。

 

| 法律/家事・相続 | 13:26 | - | - |
遺留分01
遺留分権利者が,価額弁償請求権を取得する時期及び遅延損害金の起算日はいつか?

最高裁H20/01/24判決
平成20年度版重判民法12,判時1999号73頁

民法1041条

「・・受遺者が遺留分権利者から遺留分減殺に基づく目的物の現物返還請求を受け,遺贈の目的の価額について履行の提供をした場合には,当該受遺者は目的物の返還義務を免れ,他方,当該遺留分権利者は,受遺者に対し,弁償すべき価額に相当する金銭の支払いを求める権利を取得すると解される(最判昭和54.7.10,最判平成9.2.25参照)。また,上記受遺者が遺贈の目的の価額について履行の提供をしていない場合であっても,遺留分権利者に対して遺贈の目的の価額を弁償する旨の意思表示をしたときには,遺留分権利者は,受遺者に対し,遺留分減殺に基づく目的物の現物返還請求権を行使することもできるし,それに代わる価額弁償請求権を行使することもできると解される(最判昭和51.8.30,前掲最判平成9.2.25)。そして,上記遺留分権利者が受遺者に対して価額弁償を請求する権利を行使する旨の意思表示をした場合には,当該遺留分権利者は,遺留分減殺によって取得した目的物の所有権及び所有権に基づく現物返還請求権をさかのぼって失い,これに代わる価額弁償請求権を確定的に取得すると解する・・」
「したがって,受遺者は,遺留分権利者が受遺者に対して価額弁償を請求する権利を行使する旨の意思表示をした時点で,遺留分権利者に対し,適正な遺贈の目的の価額を弁償すべき義務を負うというべきであり,同価額が最終的には裁判所によって事実審口頭弁論終結時を基準として定められることになっても(前掲最判昭和51.8.30参照),同義務の発生時点が事実審口頭弁論終結時となるものではない。そうすると,民法1041条1項に基づく価額弁償請求に係る遅延損害金の起算日は,上記のとおり遺留分権利者が価額弁償請求権を確定的に取得し,かつ,受遺者に対し弁償金の支払いを請求した日の翌日ということになる。」

事案は以下のとおりです。

被相続人Aは,平成8年2月9日に死亡しました。相続人は妻であるB、実子であるX1,Y1,Y2,そして養子であるX2,Cです。

Aは,公正証書遺言により,Aの遺産をYら及びBにそれぞれ相続させる旨の遺言をしていました。

そこで,Xらは,平成8818日,Yら及びBに対して遺留分減殺請求権を行使し,Yら及びBがAから前記公正証書遺言に基づき取得した遺産に月,それぞれ遺留分にあたる20分の1に相当する部分の返還をするように求めました。

Xらは,平成9年11月19日に本訴を提起し,Y2は平成15年8月5日,Y1は平成16年2月27日にXらに対し,価額弁償をする旨の意思表示をしました。これを受け,Xらは,平成16年7月16日の口頭弁論期日において,訴えを変更し,価額弁償請求権に基づく金員の支払い及び相続開始の日である平成8年2月9日からの遅延損害金の支払いを求めました。

 主な事実を時系列にすると以下のようになります。

 ①H8.8.18  X 遺留分減殺請求権行使

 ②H8.11    X 本訴提起

 ③H15.8  Y2 価額弁償の意思表示

 ④H16.2  Y1 価額弁償の意思表示

 ⑤H16.7.16 X 訴えの変更

このような事実関係の下,第1審は,遺留分減殺請求をした日(①)の翌日から遅滞状態になるとして附帯請求を認容しました。

原審は,判決確定の日の翌日から遅滞に陥るとし,1審判決を変更しました。その理由は,遺留分権利者は,裁判所が1041条の規定による価額を定めてその支払いを命じることによってはじめて受遺者に対する価額弁償請求権を取得するというものです。

本判決は,上記⑤の翌日を遅延損害金の起算日としました。これは,遺留分権利者が価額弁償請求権を行使する意思表示をした場合,このときに当該権利を確定的に取得するというように考えたためです。
この考え方によれば,遺留分権利者は,価額弁償請求権を行使する意思表示をした場合,対象物の所有権,現物返還請求権を遡及的に失うことになるため,意思表示によって受遺者の無資力リスクを負うことになります。また,価額弁償の際の価額算定基準時は,事実審口頭弁論終結時となるので,意思表示後の目的物の価額変動を斟酌した上で意思表示をしなければならない点に注意しなければなりません。(M)
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相続放棄の熟慮期間01
 熟慮期間を繰り下げるべき特段の事情は?

大阪高裁H21/12/18 判タ1309号251頁
cf.最判S59/04/27 判タ528号81頁,判時1116号29頁
cf.最決H13/10/30 家月54.4.70頁

民法915条1項
「相続人は,自己のために相続の開始があったことを知った時から三ヶ月以内に,相続について・・放棄をしなければならない」

「・・控訴人は,遅くとも本件遺産分割協議の際には,亡Aに積極財産のみならず多額の債務があることを認識し,これに沿った行動を取っていたといえるのであって,このような事情に照らせば,控訴人について,熟慮期間を本件訴状が控訴人に送達された日から起算すべき特段の事情があったということもできない」「したがって,控訴人がした相続放棄の申述は相続開始から三ヶ月を経過した後になされたもので,その受理は効力を有しない」

事実の概略は次のとおり
H15/03/25  A死亡
H15/12/25  相続人(控訴人)ら遺産分割協議
H19/06/08  債権者(被控訴人)が訴え提起(連帯保証債務履行請求事件)
H19/07/11  相続人(控訴人)相続放棄の申述〜受理

上記条文のとおり相続開始を知った時から3ヶ月(熟慮期間)以内に相続放棄をしなければなりません。
他方で,裁判所は「熟慮期間は,相続人が相続財産の全部または一部の存在を認識した時または通常これを認識しうべき時から起算すべき」として熟慮期間の起算点の繰り下げを認めております(最判S59/04/27)。そこで,この判例の射程範囲が一応は問題となります。

この点,上記59年判決は,「相続放棄をしなかったのが,相続財産が全く存在しないと信じたためであり,かつ,そのように信じるについて相当な理由がある」事例ですから,本件事例とは前提事実が異なっていますが,これを素直に受け止めれば「相続人が被相続人に相続財産が全く存在しないと信じた場合に限る」という限定説をとっているように読めます。
他方,本件事案では,「一部相続財産の存在を知っていたが,通常人がその存在を知っていれば当然相続放棄をしたであろうような債務が存在しないと信じた場合も含む」という非限定説の立場から主張し,熟慮期間を繰り下げるべきと主張したものです。下級審の裁判例でも「熟慮期間は訴状送達の時から起算すべき」としているものもあります。

ところで,上記事案で熟慮期間を繰り下げるというのは無理な感じがします。かなり代理人もがんばっていることが分かりますが,残念ながら上記判決の結論的にはあまり異論はないのではないでしょうか。事案としても上告せずに確定しているようです。

ところで手続についてですが,
1)熟慮期間経過後の相続放棄の申述申立は基本的に受理されない。
2)しかし,家裁が熟慮期間中であると判断して申述を受理することはできる。
3)上記家裁の受理に対しては,抗告できない。
4)申述の有効・無効の決定を求める場合には,民事訴訟(無効確認)による。
ということです。
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