共同相続人の1人からの貯金の払戻請求の拒否と不法行為
金融機関が貯金払戻を猶予される期間
金融機関の払戻拒否が不法行為となる場合特段の事情

民法419条,同709条

東京地裁平成25年10月29日
判例時報2211号54頁

「本件貯金は,返還の時期を定めない金銭消費寄託契約の性質を有すると考えられ,寄託者は,いつでも返還を請求できる。…遅くとも原告主張の同年4月末日までには,本件貯金の残高の3分の1の金額の払戻義務について,弁済期が到来してたものと認められる。」
「弁済期が猶予されるのは,払戻請求を受けた金融機関として貯金債権者を確知する調査のために必要な相当期間に限られるというべきである。」

「民法419条1,2項の定めに基づけば,金銭債務の履行遅滞による損害賠償の額は法定利率又は約定利率によることとされ,それを超える損害の賠償を請求できないと解すべきであり,これに照らせば,金銭債務の履行の拒絶が不法行為となるのは,例えば,履行が容易であるにもかかわらず,履行しなければ債権者に多大な損害を与えることを知りながら,債権者に害をなすことを主たる目的として履行を拒絶したようば場合など,履行拒絶行為が公序良俗に違反する態様でなされたというべき特段の事情が認められる例外的な場合に限られると解するのが相当である。」

本件は,相続後の貯金契約に基づく貯金の払戻請求の事案です。
貯金契約に基づく払戻請求権は,金銭債権で可分債権ですから,相続開始と同時に当然に分割され,各相続人に法定相続分に応じて帰属するのは判例の示すとおりですし,遺産分割調停においても何度も経験されるところです。
しかし,金融機関ではこの取り扱いはバラバラで,他の相続人の印鑑証明を求められたり,訴訟すれば払いますと言われたりすることも経験されるところです。
そこで,金融機関には統一的に対応してもらいたいところですが,なかなか実現しません。確かに,他の共同相続人との関係で金融機関が紛争に巻き込まれるケースもありますから,極力,同意書や印鑑証明書をもらいたいという気持ちも分からないでもないですが,相続人の確定や遺言がないこと等の要件をみたせば対応してくれるようになると楽なんですけどね。

本件は,どのような経緯から不法行為責任まで求めることとなったのか不明ですが,交渉を打ち切られたため提訴せざるを得なくなったことだけ簡単な記載があります。相応に腹立たしい部分もあったようですが,損害賠償請求額を見ると,本気で勝てるとは思ってなかったようにも見えます。

それから金融機関が弁済期が猶予される期間についても言及していてとても参考になります。
金融機関と交渉する場合,頭の隅に置いておきたい判例です。
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報酬等に係る源泉徴収 01
 報酬,料金等に係る源泉徴収について

所得税204条,所基通204−2,同204−4


弁護士,司法書士,税理士,社労士,弁理士などに報酬や料金を支払うときには,所得税を徴収(源泉徴収)することとなっています。


この報酬等の範囲ですが

1)謝礼,研究費,車代などの名目で支払われていても,その実態が報酬等と同じであれば,源泉徴収の対象になります(所基通204-2)。但し,報酬等の支払者が,直接,交通機関等へ通常必要な範囲の交通費や宿泊費などを支払った場合には,報酬等に含めなくてもよいことになっています。

2)金銭ではなく,品物で支払う場合も,報酬等に含まれます。

3)報酬等の額の中に消費税及び地方消費税の額が含まれている場合は,原則として,消費税等の額を含めた金額が源泉徴収の対象となります。但し,請求書等において,報酬等の額と消費税等の額が明確に区別されている場合には,その報酬等の額のみを源泉徴収の対象とする金額として差し支えないとされています。

上記は,いずれも国税庁のホームページの記載によるものです。

http://www.nta.go.jp/taxanswer/gensen/2792.htm


ところで,上記1)については,時々,疑問が出されることがあります。

例えば,JRの新幹線代は報酬等でなく交通費の実費であることは明らかだから,お客さんが直接JRに払った場合だけではなく,自分が先に新幹線代を立替払いした時であってもこれが源泉徴収の対象となる(上記報酬等に含まれる)という扱いはおかしいのではないか?ということです。


これに対する回答の根拠は,通達(所基通204-4)にあります。通達に少し手を加えて記載すると次のとおりです。

「法204条第1項第2号(弁護士等への報酬等)の支払をする者が・・報酬等の支払の基因となる役務を提供する者の当該役務を提供するために行う旅行,宿泊等の費用を負担する場合において,その費用として支出する金銭等が,当該役務を提供する者に対して交付されるものでなく,当該報酬等の支払をする者から交通機関等に直接支払われ,かつ,その金額がその費用として通常必要であると認められる範囲内のものであるときは,当該金銭については,204-2及び204-3にかかわらず,源泉徴収をしなくて差し支えない。」


一読しても少し分かりにくい文章ですし,役務を提供する弁護士等が直接交通機関等に支出した場合については何も記載してないじゃないか?という疑問も出ます。

そこで,以前,ある税務署の職員と話しをした時に,このことを尋ねたことがありましたが,その時には「分かりにくいけど,裏から書いてあるんです」と言われていました。反対解釈的(限定解釈?)に読むという扱いのようでした。


ただですね,所基通204-2は所得税法の「報酬等の性質を有するものについては・・車賃・・の名義で支払うものであっても・・適用されることに留意する」とあり,名目ではなくその実質的な性質によって区別するとしている訳です。そして,これを受けた204-4は,お客さんが交通機関等に直接支払いをして,かつその額が妥当な範囲であれば,源泉しなくていいと言っているだけであって,役務提供者が直接に現実の新幹線代を支出する場合については何ら述べていないというのが自然な解釈のように思われます。

よって,上記疑問はとても「自然な疑問」となるわけです。


納得されない方が出るのはやむを得ないのかなと思いますが,多分,法律としては実質報酬等であるものを,一部交通費等に含める(上乗せする)ことによって,その分の源泉を免れようとすることを許さないようにしたいという考えと,実務的にはお金の出所で一度に源泉を押えてしまうのが簡単であること等の配慮からこういうことになっているのでは?と推測しています。

| 税務/源泉税 | 11:30 | - | trackbacks(0) |
保釈01
 刑事施設に収容され刑の執行が開始された後に保釈保証金を没取することができるか?

刑訴96条3項,規則91条1項2号
最決H21/12/09 判タ1333号118頁

事実関係は次のとおりです。

4月1日,A,窃盗の実刑判決が確定
 検察官が呼び出しをするも,Aは正当な理由なく出頭しない
 検察官が所在調査をしたが,Aは制限住居に住んでいない
8月10日,検察官は保釈保証金の没取を請求
8月14日,Aは身柄確保され収容される
9月9日,東京簡裁は,保釈保証金500万円のうち300万円を没取
 A側が東京高裁に抗告,その後,最高裁に特別抗告

「刑訴法96条3項は・・保釈保証金没取の制裁の予告の下,これによって逃亡等を防止するとともに,保釈された者が逃亡等をした場合には,上記制裁を科することにより,刑の確実な執行を担保する趣旨」「・・刑事施設に収容され刑の執行が開始された後であっても,保釈保証金を没取することができると解するのが相当である」

問題点は,刑訴法96条3項は「判決が確定した後・・出頭しないとき,又は逃亡したときは・・保証金の全部又は一部を没取しなければならない」とあるのみで,その時期的限界が明確でなく無制限に没取できそうにも読めます。しかし,規則91条1項2号は「被告人が刑事施設に収容されたとき・・没取されなかった保証金は,これを還付しなければならない」とされているので,刑事施設に収容されたときまでに没取されなかった保証金は没取できないのではないかとも解釈されることにあります。

非常に争いのある部分だったのですが,この最高裁決定によって解決されたと思います。

また,本件は,被告人の収容前に検察官が没取請求している事案であり,被告人が収容された後に検察官が没取請求することができるかは判断されていません。通常は,被告人が収容されれば直ちに還付されてしまうので,その後に没取ということはありえないわけですが,何らかの理由によって保証金がそのままになっている場合には,ありうる論点です。
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窃盗罪01
 窃盗罪の既遂時期はいつか?

刑法235条,243条,43条

東京高裁H21/12/22判決 判タ1333号282頁

本件は,簡単に言うと,ジャスコ3階の家電売場に陳列してあったテレビ(幅469ミリ,高さ409ミリ,奥行167ミリ)を買い物カートに乗せ,レジで精算せずに同じフロアにあるトイレの洗面台の下の棚の中に隠し入れたという事案です。店舗内に警備員や監視カメラも設置されている状況で,本件テレビの窃盗が未遂か既遂かが争われたものです。

東京高裁は,「被告人は,本件テレビをトイレの収納棚に隠し入れた時点で,被害者である本件店舗関係者が把握困難な場所に本件テレビを移動させたのであり,しかも上記のように被告人が袋を買う際に不審を抱かなければ,これを店外に運び出すことが十分に可能な状態に置いたのであるから,本件テレビを被害者の支配内から自己の支配内に移したということができ,本件窃盗を既遂と認めた原判決は正当」と判断しました。

窃盗の既遂時期については,一般に「取得説」が採用されていると思います。その内容は,「窃取」の意義をどう捉えるかによっていくらかの差がありますが,通説的には「占有を取得したとき」「他人の占有を侵害して財物を自己の占有に移したとき」「犯人が権利者を排除して,客体を自己の事実的支配下におさめた時点」に既遂に達するとみる立場です。そして定義から演繹的に結論が出る訳ではなく,具体的には,財物の性質・形状,被害者の占有状況・管理態様,窃取行為の態様などを考慮して具体的に判断されるとされます。

そして,以前は「住居・店内からの窃取の場合は,財物に対する占有者の支配力は強いから,目的物が小さい場合でも,容易に占有を設定できる物であるときを除き,原則として屋外への搬出が必要となる」と理解されていたと思います(大谷實・各論・第3版,199頁など)。この見解からするなら,本件は未遂という方向に行きそうです。
しかし,上記判例は「被害者が袋を購入する際の言動に不審を感じた店員の機転がなければ,被告人は購入した袋に本件テレビを隠し入れて店外に持ち出すことが十分に可能であった・・自己の支配内に移したといえる」としているのです。

管理態様としては警備員や監視カメラの存在は被害者の占有を強めるように思われますが,本件では逆にこれらがあっても「トイレに隠すことができた」ということを実質的な支配の設定と評価しているようにも見えます。また,この判例には正直なところ違和感があります。それは「店員の機転」を言うよりも,まずは,客観的な「トイレから店外に持ち出すことの可能性」を述べるべきなのではないでしょうか(3階の平面図を見てみないことには納得できない感じがします)?

これまで実務的には「レジの外側に出た時」や,さらに堅く考えて「店舗から一歩外に出た時」などに既遂に達したとして逮捕するケースが多かったと思われますが,本件判例によってさらに具体的に個々の事案を検討する必要に迫られるように思われます。
| 法律/刑事 | 21:57 | - | trackbacks(0) |
管理組合の部会の裁量権
 管理組合の部会が専有部分の賃貸借を承認せず,区分所有者による賃貸を妨げたことは不法行為となるか?

判タ1319号172頁
東地H21/09/15判決
民法709条,416条 区分所有3条,31条1項

区分所有者が,その専有部分を心療内科クリニックとして第三者に賃貸するため,管理組合の店舗部分の部会に営業開始承認願を提出しましたが,これが承認されなかったため訴訟となったものです。

判決は,本件の管理規約および規則について「区分所有法の定めを具体化して,店舗部分の管理を被告店舗部会による私的自治にゆだねていると見るのが相当・・裁判所が被告店舗部会が営業者による営業開始を承認するかどうかの判断は,被告店舗部会の合理的裁量に委ねられる」としつつ,これに一切司法審査が及ばないのではなく「被告店舗部会の裁量権の行使としての処分が,全く事実の基礎を欠くか又は社会通念上著しく妥当を欠き,裁量権の範囲を超え又は裁量権を濫用してなされたと認められる場合に限り,違法であると判断すべきものである」としました。

そして,本件では承認拒否をした実質的な理由は「診療科目は心療内科であるが,実際には精神科であり,そこに通院する患者によって他の店舗やクリニックに迷惑になるおそれがる」としたことにあるとし,「心療内科,精神科や神経科に通院する患者が周囲の者に対し不安感を与えたり又は迷惑をかけたりするような行動をとるとの事実を認めるに足りる証拠はないし,被告店舗部会がこのような事実の裏付けとなり得る資料に基づいて承認しないとの判断をしたことを認めるに足りる的確な証拠もない」「被告部会は,その裁量権を逸脱し又は濫用して,本件承認願を承認せず,原告の区分所有権を制約したものと言わざるを得ず,このような行為は不法行為としての違法性が認められる」としました。

原告の損害については,礼金33万2千円,賃料33万2千円のところ,平成19年12月ころには本件専有部分を賃借することを断念したことから,このころには賃貸する可能性がなくなったとし,その後に「原告が,ほかの賃借人を探すなどして,損害を回避又は減少させる措置を執ることなく,上記損害のすべての賠償を被告店舗部分に請求することは,条理上認められない」とし「賃借することを断念した時から6ヶ月が経過した後の・・期間の賃料に相当する損害については,その賠償を請求することはできない」として,398万4千円の損害賠償を認めました。

上記は,管理組合側の裁量権の判断について一つの具体的なイメージを持つのに適している事例だと思います。

それから,損害賠償の範囲についても着目すべき部分があります。上記判決は,最判H21/01/19(判タ1289号85頁)を参照していますが,これは営業利益相当の損害について,賃借人が損害を回避又は減少させる措置を執ることができたと解される時期以降に被った損害のすべてが民法416条1項にいう損害にあたることはできないとしたものです。原告は,引き続き東急リバブルに賃貸の媒介を依頼し,賃借人募集の広告をしていたが申し出る者がいなかったと主張しましたが,判決では「希望賃料額等の募集内容は明らかでなく,このような事実のみでは,十分な回避・減少措置が執られていたと認めることはできない」としました。

本件では,原告は不承認処分の無効確認も求めていましたが,借りる方からすれば,無効確認がなされるまで時間がかかり過ぎることもあり(本件では訴え提起から判決まで3年近くかかっているようです)別の物件を探しますよね。そうすれば,ほとんとの案件では,無効確認の部分は意味がなくなってしまい,実質争点は不法行為しか残らないことになります。
| 法律/区分所有・マンション | 15:21 | - | trackbacks(0) |
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